日本は米国に「同盟すれども同調せず」を貫け――“欧州の智の巨人”ユベール=ヴェドリーヌ元仏外相が語る「対テロ、外交」

“欧州の智の巨人“と評されるユベール=ヴェドリーヌ氏が、及川健二France10記者の独占インタビューに応じ、イスラム過激派によるテロについてや、対アメリカ外交について語った。
ヴェドリーヌ氏1981年に社会党のフランソワ=ミッテラン政権が発足すると大統領官房に入り、14年にわたって外交顧問を務めた。また、リヨネル=ジョスパン社会党第一書記率いる「多元的左翼連合」が1997年の総選挙で勝利すると、ジョスパン首相のもと外相として2002年まで務めた。

「外交の碩学」としても知られ、著書は10冊を超える。ニコラ=サルコジ氏が2007年に大統領に就くと、外相を依頼されたが断った。現在も積極的に発言を続けている。

イスラム過激派によるテロは減少傾向にある

――ジハード(聖戦)主義者と呼ばれる過激派イスラム教徒によるテロが、欧州を中心に頻発していますが、これをどうみていますか。

ユベール・ヴェドリーヌ:過激派組織「イスラム国」(IS)のテロ行為で、国際情勢が悪化しているとのイメージが強くなっています。しかし、皆さんが話題にしているほど情勢は悪くはないと強調したい。紛争は「ほぼない」と言えるほどわずかであり、その数も減っています。

一部の地域では衝突もありますが、地球規模で治安が惨憺たる状態に陥っているとの悲観論からは脱却すべきであり、誤った考え方です。確かに欧州各国ではテロも起きていますが、それらは欧州の民主的政治の転覆や混乱を狙ったものではありません。

聖戦主義者がテロに走るのは、イスラム教の近代化を巡る考えの違いから生じています。それはイスラム教内部の宗教的・政治的論争が原因で、イスラム教人口の多数を占めるスンニ派が乗り越えるべき問題です。

具体的に言えば、国際社会との協調などを志向するスンニ派の中の“多数派”と、そのような宗教の世俗化を許さないスンニ派の“少数派”との間における政治闘争です。両者とも同じスンニ派。そこに自爆テロなどを起こす聖戦主義者(ISはスンニ派)が加わって、事態が複雑化しているのです。

イスラム教徒や、これとは無関係の市民が、対立の巻き添えで犠牲になっているのは事実です。しかしテロの第1標的は世俗化を進めるイスラム教徒であり、イスラム教と関係のない欧州国民やその他の民族は、そもそもテロの対象ではありません。

聖戦主義者は、国際協調路線を進める多数のスンニ派の動きを警戒しています。その結果、過激なイスラム教徒は非常に純化されたイスラム原理主義思想に感化されて、理想社会を打ち立てようとしてテロに走っているのです。欧州と中東はほぼ地続きであり、人の往来が簡単であることも、欧州内でテロが起こりやすい要因です。

テロとの戦いは続きますが、それはテロリストの「理想社会を打ち立てる」との目標達成が近いからではありません。彼らは苦難と災いを自らにかけ続けているだけです。ただ、すぐにテロとの戦いに勝てるわけではないのも事実。テロとの戦いは今後も続けなければなりません。

テロ阻止に最も必要なのは、イスラム教徒同士の文化的・教義的対話を支援すること

――テロ行為を阻止するためには、どのような備えが必要でしょうか。

ヴェドリーヌ::課題面を言えば、世界規模での秩序的で一貫したテロ対策がなされていないことです。その最初の対策として、各国が自前の防衛策を強化することを求めたいと思います。

具体的には、警察行政を中心とした自衛力の強化であり、起こり得るリスクを予見しながら対処する態勢の整備が必要です。そのうえでテロに関する適切な情報把握を進めて、各国が警備体制の強化を図るための情報共有網を構築する必要があります。最後にようやく軍事的な準備がきます。例えば、軍基地および近隣居住区域などでの警戒行動です。

イスラム教の当事者同士が、テロ回避のために努力することも期待したい。例えば、幅広いイスラム教徒が参加して「対話を通じた紛争抑止」をめざすといった努力です。イスラム教徒自身がイスラム教のあり方について「文化的・教義的対話」を深める中で、社会との平和的共存の道を探るものです。この場合は、各国政府が前面に出る必要はありません。

実は、イスラム社会の中では知的ムスリムの自発的・平和的言論活動が活発に行われており、欧州諸国、マグレブ諸国(北西アフリカ諸国)、中近東、南米などにも広がりをみせています。イスラム教徒間の対話は、長期的にみれば勇気ある穏健派イスラム教徒の勝利となるでしょう。

したがって、過激派イスラム教徒によるテロに対抗する手段は、国内の自衛手段、軍事行動そして宗教的対話です。われわれはここに加わり、善処していかねばなりません。


日本もアメリカに対して「同盟すれども同調せず」の立場をとるべき

――ヴェドリーヌさんの格言に「同盟すれども同調せず」という言葉があります。この言葉で何をおっしゃりたかったのでしょうか?
ヴェドリーヌ:この言葉は、かなり前に私がフランソワ=ミッテランの外交顧問であったときに、アメリカとの関係について質問を呈されて発した言葉です。私たちは1949年以来、アメリカの同盟国です。しかし、ある時には同意しますが、また別の時には同意しない、ということも起こりえます。それはどういう主題かによります。

これを単純に理解したいジャーナリストの中には「あなたは(アメリカと)同盟しているのか、同盟していないのか?」と聞く人がいますが、私はいつも明快にこう答えます。「私たちフランスとアメリカは歴史的な友人である」と。

フランスの人民と米国の人民との間には、アメリカ独立戦争でのラファイエット将軍などに代表される、友情の歴史があります(※フランスは1778年、アメリカ独立戦争に参戦。イギリスからの独立を助けた)。

ですから私たちは同盟国です。しかしだからといって、アメリカと自動的に提携しなければならないのでしょうか? いや、そうじゃないでしょうね。ものによってはアメリカと同意できることもありますが、同意できない場合もあります。

シャルル=ドゴール大統領は、ベルリンやキューバ危機のような国際的な事件の時には、常にアメリカ支持の側にいましたが、フランスとしての「立場の独立」は確保していました。フランソワ=ミッテラン大統領も、多くのテーマでアメリカと合意しましたが、ロシアのガスパイプラインや中東問題、スターウォーズ計画のような多くの問題については、アメリカと意見は一致しませんでした。

「同盟すれども同調せず」という言葉は、このアメリカとの関係でのフランスの政治のあり方を表現するために生まれたものなのです。

アメリカではしばしば「同盟国は自動的に連携しなければならない、そうでなければ同盟国ではない」と考える国家主義的指導者が出現します。しかし、私たちフランスはこのことに対して「ノン」を言います。

私たちは忠実な同盟国ですが、特定の主題に関しては独自の別の立場というものがあります。私は、この言葉がフランスのためにとても良い立場をもたらすと信じていますし、他のすべてのヨーロッパの国々がそうでなければならないと思います。

――日本の対米外交についてはいかがでしょうか?

ヴェドリーヌ:もしあなた方がこれ(同盟すれども同調せず)をできるならば、良いにこしたことはありません。可能ならば、ぜひその立場を貫くべきでしょう。日本も、アメリカにいつまでも追従するのでなく、「同調しない」ことも必要です。

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聞き手・文・撮影:及川健二(日仏共同テレビ局France10)記者
聞き手&翻訳:浜田真悟
編集協力:ダイアナ・オセイラン(NPOフランス女性起業グループLed By Her)

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