森高千里・復活ライヴ、“福音”と“希望”の重奏

2013年4月23日、中野サンプラザにて催された森髙千里の25周年記念ライヴを友人と聴きに行った。席は3列目・中央だった。

はじめにドラムを奏でながら登場した森髙千里が歌ったのが『ロックンロール県庁所在地』だった。床から15cmくらいのスカートに身を包んだ森高は何回かの衣装替えをしつつ、

『ミーハー』
『私がオバさんになっても』
『二人は恋人』
『渡良瀬橋』
『気分爽快』
『この街』
 アンコール(bis)で
『雨』

など代表曲を含め、2時間半で21曲、歌い上げた。

客層は40代・50代が8割くらいを占め、20代は数名、10代はゼロ。女性客は5%程度といった感じであった。何回もライヴに通って追っかけをしているコアなファンが1階席を占めていた。

齢44で二児の母である森高の変わらぬ歌声に酔いしれながら、想起したのは、フランス共和国第五共和制のフランソワ=ミッテラン第4代大統領(1981-1995)の格言である。ミッテランといえば愛人・恋人が100人いたといわれるほど、死ぬまで、女性を魅惑した人だ。
女性にまつわるエピソードはいくつもある。

世界的ベストセラーを数々上梓したフランスを代表する女性作家・フランソワーズ=サガンは大のミッテラン嫌いだった。ところが、あるとき、ミッテランと飛行機で一緒になった。サガンはミッテランと話してすっかり惚れてしまい、大のつくファンになった。
あるいは、土井たか子・社会党委員長(当時)がミッテランと会談した時の話。別れ際に女性秘書に向かってウインクをしたんだとか。彼女もそれでまたファンになった。
前立腺ガンを患いながらも、大統領退任後は、朝帰りを繰り返し、過去・現在・未来の恋人によく電話した、という。

そのミッテランが、最晩年、密着取材する若手ジャーナリストに女性の年齢について次のように語った。

☆☆☆☆☆☆
君はレストランで若い娘と食事をしている男性を見たか?
(「いいえ」と応えるジャーナリストに)
初めにこちらを見たのは彼らのほうだ。
あれは愛人だな。娘ではない。
25歳か少し上といったところか。

(女性の年齢で)25歳というのはあまりに若すぎる。
35歳なら?まあ、悪くはないな。
女性にとって理想の年齢は、
そう、40代前~半ばだ。
もし、君が結婚するとしたら、
相手は女優がいいぞ。
☆☆☆☆☆☆

機知に富んだ会話だが、これは、最晩年のミッテランを描いた映画『Le Promeneur du Champ de Mars』(日本では上映されず)で著名なコメディアン・ミシェル=ブーケ演ずるミッテランが砂浜で語ったセリフだ。フィクションもおりばめながら創られた作品とはいえ、いかにも、ミッテランがいいそうなセリフ。氏の哲学にも合致する。

15年ぶりにライヴを行った森高千里は、ミッテランの至言を証明するように、以前より、さらに、美しくなられた。しかも、花もあって実もあるように見えた。

曲と曲の間で、観客とやりとりをした。

「一番遠くから来た人?え、ハワイ?いま、考えたんでしょう」

など。

それを聴いた友人曰く、

「余裕が感じられるね。何でも来い!という感じだ」。

「明日は朝5時に起きて、子どもたちのお弁当をつくる」

といった森高ママには生活感もある。それも魅力の一つだ。

見事に復活した森高だが、課題はいくつか残ろう。

まず、かつては歌詞に共感してファンになる女性が多くいた。
しかし、会場に来た女性はわずか。
女性への浸透が今後の成功を担う一つ目の鍵だ。
自身も曲も褪せていないから、あとは、どう浸透させるか…
ということだろう。

二つ目は若年層のファンの開拓だ。
私は平成生まれの男の子複数に尋ねたが、
「森髙千里」という名前を知っている人はおらず、
「私がオバさんになっても」を口ずさむと、
「ああ、その曲を歌った方ですか」
という反応が返ってくる。

三つ目は今後、新曲をリリースするか……だが、これは早急の課題ではない。
森高自身は“未定”とだけ語った。

2児の母であり、44歳の森髙千里は少なからぬ人にとって、“福音”であり、“希望”である。
女性にとって森髙千里という生き方は、一つのロール・モデルになろう。

希望だけで生きていけるとは思わない。
しかし、希望がなければ、“私たち”はあきらめてしまう。
初代ナポレオン=ボナパルトの格言を文字れば、
「アーティストとは希望をもたらすものをいう」(Un(e) artiste est un(e) marchand(e) d’espérance.)
ということになろう。

だから、森髙千里には「希望をあたえる」存在であって欲しい。

Hope is on the way.

と感じさせるような歌手に、だ。

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