バカバカしさを通り越し人種差別の邪悪さに陥りつつある反北朝鮮プロパガンダ政策で、世界から浮きまくる安倍ニッポン by 藤原敏史・監督

さすがに耳を疑うニュースが飛び込んで来た。朝鮮総聯系の企業の経営者ら3人が密輸の疑いで逮捕されたという。 “密輸品” の内容はなにかと思えばインスタント食品やお菓子だそうだ。なるほど、日本は国連制裁に加えた独自制裁で北朝鮮相手の全面禁輸を決めているのだから名目上は「密輸」にはなろう。だが軍事技術に転用できる電気製品などならまだしも、たかがインスタト食品にたかがお菓子だ。そもそも禁輸にすること自体、首を傾げる。

せいぜいが書類送検で済ます程度の、在日朝鮮人が家族が心配で食べ物を送る当たり前の話に毛が生えた類いの微罪とも言えないものを目の敵とは、さすがに度を越しているし、朝鮮総聯・在日朝鮮人をいくらいじめたところで、北朝鮮の現体制への圧力につながるどころか、北朝鮮政府に日本を非難する大義名分を与える逆効果でしかない。

日本の捜査当局はさらに、朝鮮総聯傘下の保険会社(要するに在日朝鮮人どうしの、お互いに困ったときの自助組織)にも強制捜査に乗り出した。確かに、厳格に法律を適用すれば違法行為になる可能性はあるが、そもそも整理回収機構がこの会社に目を付けたところからして、目当ては要するにそこに集まっている、差別があるので一般日本人よりも生活が不安定になりがちな在日朝鮮人が、老後のためや、万が一の将来のために蓄えて来た預金を、わざわざ差し押さえることにも見える。

もっとも、政権側に立つ、というかこの政権が自分たちの差別意識を正当化してくれることに喜んでいる人達は、在日朝鮮人が北朝鮮にいる家族に送金することですら、金体制の核開発資金の確保になるに違いないから止めさせろ、などと言い出すのかも知れないが。

時代錯誤な中世もどきの「兵糧攻め」の餓死期待が、日本がいう「最大の圧力」?

どうも日本だけが大きな勘違いをしているのではないか? 北朝鮮に対する経済制裁は、あくまで核兵器とミサイルの開発が対象であり、それが国連安保理決議を正当化する国際的なコンセンサスだ。しかし日本だけが中世末期の豊臣秀吉の備中高松城攻略戦にでも憧れたかのような時代錯誤で、兵糧攻めのつもりで北朝鮮国民を飢え死にさせて降伏を迫ることを「北朝鮮の方から政策を変えるから話し合いを、と言って来るように仕向ける」とでも言いたいらしい。

「最大の圧力」を繰り返すだけで、なにが「最大」なのか、いつになったら「最大」に達するのかもさっぱり不明な、口先だけの抽象的な強がり姿勢を繰り返す安倍政権だが、本当に核開発を止めさせたいのなら、とっとと出来うる限りの最大をやった方がまだ戦略的な合理性があるはずだ。だいたいこれまで何年間「日本独自」の制裁をやって来て、なにか効果があったのだろうか?

日本が「結束を」という国際社会がまとまるとしたら、あくまで北朝鮮の政府・体制に対してだけでだ。一般市民に罪はなく、北朝鮮の国民は苦しめてはいけないのが、現代の国際社会における最低限の倫理だ。労働党・金体制を打倒することまでは正当化されるとしても、それはあくまでこの政権が北朝鮮国民にとってよくない政権だから、という理由に限られるのが、現代の国際法に基づく「法の支配」だ。禁輸措置は最大でも経済活動の締め付けで外貨を稼げなくするために限定され、一般市民を飢え死にさせていいわけがないし、もし日本がそんな人倫に反する期待を抱いているのなら、それだけでもその無法は国際的非難を免れない。

ただでさえ日本政府は、韓国がUNICEFと世界食糧基金の要請で決定した人道支援に反対してみせたり、平昌オリンピックに北朝鮮の出場を望む韓国やIOCの動きを妨害したがったりして来た。

また国内では朝鮮学校への高校無償化適用を否定する政策を支持した判決も出ている(無償化を適用しないことは違法にならない、と無理のあるへ理屈で言っただけで、適用することが違法になるわけがないので念のため)。

金正恩政権への圧力を在日朝鮮人いじめや人種差別と混同して、北朝鮮国民の餓死すら期待するような、もはや邪悪な悪意としか言いようがない敵意をむき出しにして恥じないのなら、いったいどの外国が「連携」してくれると言うのだろうか?

「木造船」「漂着船」報道のヒステリーと、地元との露骨なズレ

このところ連日ニュースを賑わしているのが、日本海で操業していたと目される北朝鮮の「木造船」「漂着船」だが、日本海側の自治体やその住民、自分達の漁場を荒らされた当事者の漁師がひたすら困惑している姿と、やたらと分量が多い報道に露骨に現れる敵意・悪魔視のズレも不気味だ。

北海道の無人島で一時滞在用の待機小屋の備品が盗難に遭った漁協の担当者は、「めぐんでやったつもりで、と思ったがさすがに」と根こそぎ被害に怒るというより呆れていたが、それでも北朝鮮に憎悪や敵視を向けているわけではない。発電機二台まで盗まれて被害総額2000万というのは大変だが、それでも「食い詰めた、貧しい人達なのだ、仕方がない」というごく当たり前の良心から来る留保もまた働いているのが被害当事者なのに、報道のフィルターを通すと「経済制裁が効いているに違いない」という政権の自己満足に奉仕するのが半分、北朝鮮の国家体制とその権力者ではなく北朝鮮の国民そのものへの憎悪と恐怖感をかき立てる意図が半分の、人倫というものが吹っ飛んだとしか思えないヒステリックさに染まってはいないだろうか?

現実には、自治体にとっては漂流船の撤去費用の予算がなくて頭を抱えているのが主たる問題で、それでも遺体を丁寧に供養し火葬する費用も出し続けているのは、それが日本的な伝統の道徳だからだ。同じお金の問題は、盗難に遭った漁協にとってはさらに深刻(北朝鮮の漁民に弁済できるわけがないのも分かりきっている)だし、日本海側の漁民が国に求めているのは「北朝鮮はけしからん、やっつけろ」ではなく、違法操業で漁場が荒らされることへの具体的な対策だ。

テレビ報道の漁業者たちのインタビューからは、ただでさえ荒れる冬の日本海でも今年はとくに異常気象で悪天候のなか、はっきり言えば小さなボロ船で危険な操業を続ける海の向こうの同業者への素朴な心配もまたにじみ出ているのだが、報道する側はそこにすら気付かないようだ。そうした被害当事者の人達には確かに「日本人の美徳」と言っていいものが見えるのが、いまやそういうまともな日本人が、日本国内で少数派になってしまっているようにすら思える。

拿捕することで北朝鮮漁民の生命安全の保護にもなる、それが施政権を持つ日本の責任のはず

違法操業は違法操業であり、警察権を担い治安に責任を負う国の義務はそれを止めさせることだ。それこそが日本人の漁業者とその生活を守るためにもまず必要なはずが、国にはまったくやる気がないらしい。領土領海の係争地である尖閣諸島の周辺では他国の違法操業は警告だけして追い出す、という密約(日中「棚上げ合意」の一部)は確かにあるが、大和堆と呼ばれる漁場が日本の排他的経済水域内になることに異論は出ておらず、つまり拿捕する権限も含めて施政権と治安維持の義務は日本政府にある。海保が拿捕しても外交問題にもなりようがなく、仮に北朝鮮が非難して来ても完全に反論できることを、なぜやらないのだろうか? そんな政府の不可解な行動にマスコミも同調して、「北朝鮮とは国交がない」のが拿捕できない理由だと言う外務省・法務省からの虚偽リークを無節操に垂れ流すばかりだが、こんなナンセンスが通用するのなら、日本は法治国家ではない。

すると今度は「海保は放水で追い出している」といういいわけ報道が始まった。もうこの国は法治主義どころか最低限の人倫すらかなぐり棄て、まったく非現実的な独りよがりに耽溺しているのだろうか?

まず警告して追い出すだけでは、たとえ放水されても次は日本の治安当局の目をかいくぐる覚悟を決めて、またやって来るに決まっている。こんなことでは日本の漁業資源と漁業者の仕事と生活を守るのに、なんの効果もないのは言うまでもないが、さらにひどいのはこの「放水」という手段だ。

相手は「木造船」と報道されるような、船内の居住スペースの確保すら出来ているのか怪しい、旧式どころかそれこそ古代の、縄文時代の末期に稲作が日本に伝えられたときにすら喩えられそうな小型漁船だという。荒れた海では沈没の危険があることは、漂着が相次いでいるだけでもすぐに想像がつく。そんな小さな漁船に真冬の海上で「放水」とは、日本政府は人の命をなんだと思っているのだろうか? どうせ殺したいのなら、銃撃で即死でもさせた方がまだ苦痛が少ないだけ人道的ではないか、と極端な皮肉すら言いたくなるほどの異常さだ。

違法操業漁船の拿捕は外交カードにもなるのだが…

これだけ切羽詰まった状況で操業している漁船を拿捕することは、保護という観点からもぜひともやらなければならないはずだ。なのに最低限の人道的・倫理的観念から来る疑問すら抱かず、「国交がないから拿捕は」などというナンセンスを真に受けているのが日本国民の大多数なのだろうか? 難破して死んでしまえばその命は取り返しがつかない、北朝鮮人と言えども人の命は平等に貴重で守られなければならない、という人としての道の基本すら、日本政府は麻痺してしまったのだろうか?

だいたい、拿捕し身柄拘束した北朝鮮の漁民の処遇や返還をめぐる交渉なんて、国交がなくても簡単に始められるというか、むしろ交渉を始める格好の口実にもなれば、北朝鮮から交渉を持ちかけて来ることだってあり得る。北が交渉に応じないのなら、それこそ「自国民の命すら軽んじる独裁政権」だと非難したっていい。だいたい「国交がないから交渉が難しい」のなら、安倍政権はいったいどうやって拉致事件を解決する気なのか?

むしろ現状、核開発にせよ拉致にせよ、交渉の糸口すらなく国内向けに「最大限の圧力」という中身がまったくない呪文を繰り返すことと、アメリカ頼りの対米隷属以外はまったく手詰まりなのが今の日本の対北朝鮮外交だ。いささか汚いやり方とはいえ、拿捕した漁民はいわば「人質」にもなる。だから交渉の突破口として使えるというのが当たり前の外交常識なのだが、こんな子どもでも気付く簡単なことすらやる気がないのが、今の安倍政権らしい。

そんな日本政府の手詰まりか、そもそもやる気がないのがあからさまにも見えるなかで、未帰還の拉致被害者・増元るみ子さんの母と、生還した元被害者の曽我ひとみさんの夫チャールズ・ジェンキンスさんが相次いで亡くなった。相前後して横田めぐみさんの母・早紀江さんが二年前に安倍首相に出した手紙に、政権側からはなんの反応もなかったことも明らかになった。

拉致問題の解決手段は、交渉しかないはずなのだが

その横田早紀江さんが先月のトランプ大統領来日時の面会で、言うべきことが言えなかったと悔いているとは大手メディアでも多少は報道されたが、もう忘れられているのもいったいどういうことなのだろう? 日本全国がめぐみさんの帰還を望んでいるのではなかったのか? あるいは拉致問題は結局、北朝鮮を敵視する言い訳で、北朝鮮を敵視するのは在日朝鮮人を差別する言い訳でしかなく、横田さんたちはそうした邪悪さに利用されただけだったのか?

一部の女性週刊誌で報道されたのは、もっとひどい実態だ。クリスチャンである早紀江さんは、トランプとの面会の話が打診されたとき、教会の仲間が中心の支援団体の会で「戦争だけは絶対に止めて下さい」とお願いしようと思うと発言した。するとその集まりに顔を出していた「救う会」のメンバーに「安倍首相にこれだけお世話になっているのに恩知らずだ」となじられた、というのだ。

日本と北朝鮮が戦争になれば、まだ北朝鮮で生存している拉致被害者がいれば真っ先に殺される危険がある(以前の再調査の申し出の時点で、生存者がまだいて帰国させたいという打診は北側から出ている)。またアメリカには核攻撃で北朝鮮全土を壊滅させる能力があり、そうなれば拉致被害者も命はないし、平壌にはめぐみさんの娘のキム・ウンギョンさんとその夫と娘(横田さん夫妻にとってはひ孫)もいる。だから横田さんが戦争に反対するのは当然だ。

また世代的にも横田ご夫妻は、物心ついてまもなくあの悲惨な戦争を体験している。戦争だけは止めて欲しいと思うのが、クリスチャンとしても当然なのが、いったいなにが「恩知らず」なのだろうか? というかこれでは、つまりは安倍首相は北朝鮮と戦争を始めて欲しいとトランプ大統領を説得するために、横田さんたちを面会させたのだろう、ということにしかなるまい。そうでなくてなぜ、横田さんが「戦争だけは反対」と言うことをが「恩知らず」になるというのか?

拉致問題が日本政府が北朝鮮を非難するのに使える最強のカードになるのも確かだが、安倍政権は被害者をトランプ大統領に会わせるれば自分の支持を増やすことにつながるのでは、という期待程度でしか使っていない。拉致問題は国連人権理事会でも取り上げられる議題になっているが、逆に日本政府の取り組みがよく分からないのも問題だ、という批判がその人権理事会のトマス・キンタナ特別報告者(前ミャンマー担当、今は北朝鮮人権問題担当)から出ている。

だいたい横田早紀江さんなどはブッシュJR、オバマに続けて、安倍の要請でアメリカ大統領に面会するのは三回目だった。娘さんが解放されるかどうかについて、アメリカ大統領に直接出来ることははなにもないのも、よくご存知なのだ。

そもそも対北朝鮮戦争なんて出来っこない。軍事力行使はあり得ない

そんな日本政府に衝撃が走ったのだそうだ。ティラーソン米国務長官が対話の開始は前提条件なしで構わない、「最初は天気の話でもいい」と発言したのだ。「天気の話でもいい」はさすがに驚くが、交渉の用意があるとの発言でなぜ「衝撃が走る」のかよく分からない。日本政府はおかしいんじゃなかろうか? だが御用報道に徹する一部大手メディアは、米共和党のなかでも国内引きこもり系の極右で外交問題にさして影響力があるわけでもないグラム上院議員の、「軍事力行使の可能性は30%」と言った発言をやたらと強調して、ティラーソン発言の「火消し」に躍起になっている。

なぜティラーソン発言を「火消し」する必要があるのか、ひとつの可能性を除けば完全に理解不能だ。口先だけ「誰も戦争は望んでいない」と言っている安倍首相は、やはり戦争をやりたくてしょうがなく、日本は憲法上開戦ができないからアメリカを巻き込んでまず戦争を始めさせて、安保法制で可能になった集団的自衛権の行使にかこつけて自分も対北朝鮮戦争をやりたがっているのか、戦争を煽る世論操作で政権支持率を回復しようとしているのではないか。

ティラーソン発言と相前後して、ワシントン・ポストがアメリカと北朝鮮のあいだで偶発戦争が起こるシミュレーションも報道していることも考慮すれば、いよいよ話し合い解決が水面下で始まろうとしているか、少なくともアメリカ政府の総意がそこでまとまりつつあると考えるのが、もっとも合理的だ。

なにしろ、ついにアメリカ全土が理論上は射程に収まる火星15号の第一回の発射実験が行われてしまったのだ。ワシントン・ポストが報じたシミュレーションもそれを前提に、アメリカ本土への核攻撃がいかに起こりえるのかを想定したものだ。今やアメリカが軍事行動を起こせば、即座に本土の大都市に向けて核弾頭を搭載したミサイルが飛んで来る可能性が現実になった。仮に大気圏再突入技術や迎撃をより困難にする多弾頭化がまだ未完成でも(これは中距離型の火星14号でしか実験されていないし、成功したかどうか分からない)、アメリカ本土の上の宇宙空間に届きさえすれば、そこで水爆を爆発させて協力な電磁波を発生させてアメリカじゅうの電子機器や電気関係施設を麻痺させることは十分に可能だ。一時話題になった「電磁パルス攻撃」だ。

言い換えれば、アメリカは自国民の多大の犠牲を覚悟しなければ軍事行動は取れなくなりつつある。北の報復攻撃の主力が短中距離ミサイルで、犠牲が日本や韓国など東アジア中心になっていた以前の想定とは、状況がまったく変わりつつあるのだ。

もともとは、11月前半のトランプのアジア歴訪が無事に終われば(そのあいだに北朝鮮が目立った軍事的行動を取らなければ)そこで一定の信頼関係が米朝間で構築されて対話が始まる、という暗黙の了解があった(というか、米国務省の北朝鮮担当がメディアに語っていた)。それがどういう理由があったのか、まさか安倍政権がしきりと反対したなんて理由ではないことを祈るが、二週間も先延ばしされ、そこで威嚇射撃で相手をせかすという乱暴ではあるが交渉術においてしばしば用いられる一種の定石として、大陸間弾道ミサイルである火星15号の第一回発射実験が行われたわけだ。

ティラーソン発言の直後に、タイで行われる国際会議で北朝鮮代表がいかにも不自然な言い訳で突然欠席した(「喉が痛くて声が出ない」のだそうだ)のも、水面下の極秘直接交渉がすでに始まっている可能性を強く示唆している。

トランプ政権としては強硬に戦争を望んでいる同盟国の日本や共和党内の一部極右に妨害させないためにも、交渉が少しでも外に漏れることは絶対に避けなければならないし、北朝鮮としても日本だけは排除したい理由が多々ある。むしろ日本がほっておいても自ら孤立しかねないのなら、それを助長させることは事態を北朝鮮有利に運べるカードになるし、逆に北京政府が今年の南京大虐殺記念日式典で急に対日関係改善の意志を明確に示したのも、その北朝鮮を牽制しつつ、日本には話し合い解決を妨害させず、しかし日本が孤立しないで済むように布石を打ち始めた、と見ることもできよう。

日本の対米従属派にとって最悪の「話し合い」になる危険性

それにしても「天気の話でもいいからまず会おう」というティラーソン発言は、確かにトランプとの蜜月演出に必死になって来た安倍にとっては冷や水を浴びせられることだろう。こうなるくらいならむしろ、日本が積極的に米朝対話による早期解決を働きかけた方がまだ良かった。強硬姿勢で虚勢を張ったことは、北朝鮮に時間稼ぎを許しただけだ。

なにが最悪と言って、北朝鮮はアメリカ全土を射程に納め得る火星15号の第一回実験を成功させてしまったのだ。この段階まで来てやっとアメリカが「対話の前提条件はない」「条件つきの対話を期待するのは非現実的」というのは、その火星15号の開発さえ凍結してくれれば朝鮮半島の非核化という大義名分にはこだわらない、という意味にもなりかねない。もっとも、北朝鮮に技術を高める時間を与えれば与えるほど、アメリカにとっての交渉のハードルはどんどん上がってしまうのは、最初から分かりきっていたことなのだが。

言い換えれば、北朝鮮が限りなく実用化に近づいている水爆(ないしなんらかの核弾頭)を持っているのなら、それを搭載できる中短距離ミサイルならばとっくに実戦レベルのものがあり、つまりこれまでならば北とアメリカのあいだで何か偶発的な軍事衝突があった場合、北の報復攻撃が日本に核ミサイルを打ち込むことだけになる可能性は高かった。だが火星15号が使えるようになれば、今度は在日米軍基地よりもアメリカ本土を狙えるわけで、それだけはアメリカは阻止したい。

極論を言えば、例えばワシントン・ポストの報じたシミュレーションでは、北側の第一次攻撃はソウルへの大砲での攻撃など韓国に通常兵器を用いるのとほぼ同時に、在日米軍基地への中短距離ミサイルでの核攻撃が想定されている。米本土への核攻撃は第二派で、ニューヨークやロサンゼルスを狙われれば数百万ないし一千万を越える犠牲も覚悟しなければならない。ならばアメリカ政府はまだ自国の直接被害がない第一次攻撃の時点で、本土への核攻撃を絶対に阻止しなければならなくなるのが自国民に対する責任であり、そのためには日本の被害は無視してでも停戦を持ちかけるのが最もあり得る想定だ。

「抑止力」「核の傘」とは、しょせんこの程度のものでしかない。安倍首相が「日米同盟は血の同盟」といかに吹聴しようが、北がアメリカ本土を直接核攻撃もできるという段階になれば、アメリカにとっては日本だけを犠牲にすることも当然の現実的選択の範疇になる。むろん安倍首相がいかにトランプとの個人的な親しさを強調しようが、「アメリカ・ファースト」のトランプにとって日本がいつ蚊帳の外になっても、当たり前といえば当たり前のことだ。

現実無視の平和ボケとしか言いようがない日本政府

このシミュレーションで在日米軍基地として標的に上がっているのが厚木と横田の、首都圏の米軍基地と、沖縄、岩国だ。これでもまだ甘めの想定で、横須賀の軍港こそ最優先の標的になる。沖縄本島すべてが壊滅するレベルの核攻撃も併せて、北朝鮮側の自国防衛のための選択肢としてもっとも当然のことだし、あくまで自衛行為として国際法上も正当化され得る(ちなみにこれが違法なら、軍事目標に投下されていない広島と長崎は完全に非合法の、明白な人道犯罪になる)。

こうした予測は軍事安全保障では当たり前のことなのに、日本政府はこれまで、あたかも三沢基地であるとかの人口密集地域から離れた場所が狙われるかもしれないとして、なぜか秋田県などの避難訓練を重点的にやらせて来た。国民をバカにしているのか? 呆れるまでの平和ボケなのだろうか?

軍事的目標として重要度が遥かに高いのが首都圏にある横田・厚木・横須賀の司令部機能と、冷戦期に世界最大の核兵器密集地域(返還前で1300発もあった)だった沖縄本島にそのままいつでも使えるように温存されている巨大核弾薬庫と、あとは北朝鮮本土への侵攻があり得るのなら最前線に立つ在日米軍海兵隊(これも沖縄と、岩国)になるのも、軍事安全保障のイロハ、分かりきった常識なのに、である。

核兵器禁止条約ボイコットで低下し続ける日本の国際的地位

今月の国連安全保障理事会の議長国は日本で、その日本が呼びかけた安保理の閣僚級の緊急会合に、北朝鮮がわざわざ「当事国」としての出席を求めたのも、なんらかの具体的な交渉が米朝のあいだで水面下で進んでいることを強く示唆している。これもまた北朝鮮敵視を盛り上げてティラーソン発言の波紋を牽制したい日本の思惑が、あまりに稚拙過ぎて逆手に取られた典型で、案の定北朝鮮の慈成男(チャ・ソンナム)国連大使は、議長国の日本を「米国の陰謀」に唯々諾々として従ったとして「可能な限り最も強い言葉で非難する」と述べた。

トランプ政権にとっては、安倍の異様なまでの対北朝鮮強硬姿勢に同調する素振りを見せることは、日本にアメリカ製の兵器をアメリカの言い値で買わせ続ける理由として使えるので一定の配慮はあるが、しょせんはその程度のものでしかない。

他の国連加盟国にとっては、核拡散防止条約(NPT)で自分達の核武装独占が保証される現状を変えたくない安保理常任理事五大国は北朝鮮の核保有そのものにまず反対だが、それ以外の加盟国にしてみれば目的はあくまで「朝鮮半島の非核化」であるべきだ、となる。これはむろん「北朝鮮の核武装阻止」だけで達成されるものではまったくないし、国際社会の共通関心はあくまで核兵器の拡散を憂慮する核軍縮の問題であって、北朝鮮敵視で世界を日本の味方につける的な議論には誰も乗って来ないと分かっていない時点で、日本の外交は絶望的にズレている。

この夏に核兵器禁止条約が国連で採択され、裏方で大活躍したICANがノーベル平和賞を受賞したのも、国際世論が無条件の核廃絶をこそ支持していることの現れであり、唯一の戦争被爆国だというのにその条約をボイコットした日本の、北朝鮮の核武装だけを「悪」とみなそうと論点をすり替える姿勢は、およそ支持を集めるものではないどころか、下心というか邪心まで見透かされている。

この条約は阻止しようとアメリカが同盟国に恫喝まがいの文書を送りつけたことは明らかになっているが、そのアメリカに広島と長崎に原爆を落とされた「唯一の戦争核被爆国」が唯々諾々と従ったこともまず、失望というか呆れられている。しかもその際に「核の傘」が必要だと公言しているのが日本政府では、毎年出している核廃絶決議案もただの偽善のダブスタと愛想をつかされて賛成国が激減したし、広島で開いた「賢人会議」も見え透いた言い訳というか、非核保有国と核保有国の橋渡しというのは核保有国の身勝手の押しつけしか意味しないことも見抜かれている。

だいたい「核の傘」依存を公言するのなら、日本は「朝鮮半島の非核化」にはまったくやる気がなく、アメリカの腰ぎんちゃくとして軍事的優位を確保したいだけなのだとしか思われない。

中国とロシアは、北朝鮮の相手をアメリカに丸投げしたい

核兵器禁止条約に反対した核保有国のなかでも、中国は属国のつもりだった北朝鮮の核武装に怒り心頭だが、ロシアのプーチンは遥かに現実主義的なものの見方に徹している。

そのロシアはアメリカとならウクライナ問題を理由にした経済制裁の解除と経済関係の強化を条件に妥協する可能性はあるが、アメリカの言いなりでしかない日本なぞまったくプーチンの眼中にはない。むろんロシアにとって日本との経済関係の好転も重要なのだが、これはわざわざ交渉するまでもなく、安倍の方からすでにプーチンに「やらせて下さい」と言って来ているに等しいし、安倍がそうした媚び売り姿勢でいかにも自分とプーチンには信頼関係があるのだと国内的に偽装しようとしているだけであるのも、そのプーチンには完全に見透かされている。

中国もロシアも、あたかも自国が北朝鮮に影響力を持っているかのように振る舞っているが、実のところ金正恩には、どちらの大国だろうが言うことを聞く気なぞ皆無だ(むしろ一連の核ミサイル騒動は、中国の属国ではないという自己主張にも動機のひとつがある)。だからこそ両超大国にとって、かつての保護国にこうも反抗され愚弄されている現実が明らかになってしまえば、対外的にも国内的にも政権の威信に関わる。こと中国の場合、習近平がたかが金正恩を黙らせることすら出来ないと分かってしまえば、国内の様々な不満も押さえきれなくなるだろう。だから米朝間でなんとか穏便に話をつけて欲しいのが両国の本音だ。

ドナルド・トランプは最初は主席戦略官だったスティーヴン・バノンらの進言を受けて、中国に圧力をかけさせるつもりだったが、かなり早い段階で(恐らく習近平をフロリダの自分の別荘に招いた時点で)、中国にその影響力がないことを理解している。だから「中国はベストを尽くしている」と擁護するツイートすらしたこともあるが、そこで「平壌は北京の言うことを聞かない」という現実をおおっぴらに認めてしまえば、今度は習近平の指導力が決定的に低下してしまうだけに言うに言えない。

一方でアメリカ国内でもまだ北朝鮮は中国の属国のはずだという思い込みが支配的だ。かと言ってそこを説得しようとすれば習近平政権が不安定化し、トランプもせっかく見出した信頼できる交渉のパートナーを失うことになるのだから、どう動いたらいいのか分からなくなったままなのがトランプ政権だ。ここには無論、国務省の政治任用の幹部人事がまだほとんど空席のままで、その機能が十分に果たされていないという、この政権ならではの弱点も大きな足枷になっている。

「朝鮮半島の非核化」を言うのなら、日本の「核の傘」はなくなる

12月15日の安保理閣僚級会合で北朝鮮大使が日本をアメリカの陰謀の腰ぎんちゃくと言わんばかりに批判したのは、はっきり言えば完全にバカにしているし、そうやって侮辱された日本に同情する国もまずないだろう。アメリカの恫喝に屈して核兵器禁止条約の議論から逃げ出し、「核の傘」の必要性を必死で訴えるのなら、そもそも北朝鮮がアメリカに侵略され国をまるごと殲滅される危険に対する抑止力として核武装するのを批判すること自体、不正直なダブスタにしかならないのだ。

つまり「朝鮮半島の非核化」について日本に真面目にやる気がないと公言しているに等しい。朝鮮半島が非核化というのなら、アメリカが北朝鮮を核攻撃の対象としないことも保証されなければならないからだ。つまり日本にとっては、アメリカがその「核の傘」を保証し続けることが出来なくなるし、逆に日本が北朝鮮に圧力をかけるのにアメリカの核抑止力に依存し続けるのなら、日本列島を射程に収める中短距離ミサイルに核弾頭を搭載するのは北朝鮮にとって当然の自衛的選択というか、安全保障上の軍事バランスの維持、抑止力の確保にしか、客観的にはならない。

日本政府の公式見解では、沖縄の返還前にそこに配備されていた核平気はすべて撤去されたはずだ、となっている。一方アメリカは、沖縄における核の有無自体を軍事機密とみなし肯定も否定もしていない。しかもこの返還時の交渉では、沖縄への核持ち込みをアメリカが日本に通知する義務はないとする、いわゆる「核密約」が結ばれていた。つまり軍事安全保障の常識で言えば、沖縄の米軍は核武装していて、それがいつでも在韓米軍基地にも持ち込まれる体制になっていると誰でも思う。だから「朝鮮半島の非核化」とは当然、沖縄が完全に非核化され、そこにあった核兵器が北朝鮮相手に使われることは絶対にない、とアメリカが保証しなければ成り立たないし、北朝鮮も当然それを求めて来るだろう。

在沖縄米軍に限ったことでもない。日本政府の「非核三原則」のうち「持ち込ませず」をアメリカが遵守するようにと、日本政府から強くアメリカに要求したことすらないのだ。つまり沖縄どころか本土の基地に核兵器が持ち込まれていても日本政府は「非核三原則がある」と口先だけの欺瞞に徹するわけで、こんな状況を北朝鮮側が「朝鮮半島の非核化」になると認めるわけがない。

また肝心の北朝鮮を取り巻く当事者諸国の連携も、なによりも日本が原因でガタガタになりかねない。

あからさまな北朝鮮憎しに凝り固まって核拡散と核軍縮の問題として見ずに自国の「核の傘」は絶対に温存して欲しいとアメリカに望む一方的な態度は不信を買うだけだし、そもそも北朝鮮の建国に至った歴史的な経緯(つまり日本の植民地支配)がある以上、日本の北朝鮮敵視や、日本国内における在日朝鮮人差別を日本の行政や司法が放置し(国連人権理事会で度々是正が勧告されている)、立法府のメンバー(つまり一部議員)から差別発言が平気で飛び出しさえしていることに加え、司法判断さえ行政府や政権与党の差別性に加担し、捜査当局が露骨な差別意識丸出しの国策捜査まで始めてしまえば、北朝鮮に「日本は国連憲章に違反している(いわゆる旧敵国条項で、軍国主義と侵略の過去の反省を義務づけられている)」という大義名分すら与えかねないのだ。

安倍の日本と「価値観を共有する外交」なぞ、やる国はない

ところが日本国内では、たとえばトランプの国賓としての訪韓の公式晩餐会に元慰安婦の女性が出席したことを「北朝鮮に対抗する結束を乱す」などと批判する倒錯した暴論が後を立たない。今の日本では、朝鮮半島が分断国家になった原因は日本の植民地支配が失敗続きだったこと、それも敗戦時に日本軍が真っ先に半島から逃げ出した(つまり宗主国として最低限の責任すら放棄した)からであることすら、知らないか気付いていない者も多い。

だが日本が依存しようとしているアメリカとの連携ですら、サンフランシスコ市で公有の公園に慰安婦像が立つことになると大阪市が姉妹都市関係を破棄すると言い出し、人種差別丸出しに同市の市長が中国系だとまであげつらうようでは、アメリカも日本と組むのは無理と判断しかねない。

どっちにしろトランプが北朝鮮への圧力をかけて交渉をアメリカ有利に進めたいなら、重要なのは中国とロシアを動かすことと、朝鮮半島における対立の直接当事国である韓国との連携を強化することで、日本にはこの危機を利用して武器を買わせる以外に連携する価値も実のところない。

韓国では、右派にとってはアメリカは日本の植民地支配から解放してくれた国であり、朝鮮戦争で守ってくれた国である一方で、韓国社会の全体にとっては1980年代まで続いた軍事独裁のバックにいたのもまたアメリカだ。この世論のデリケートな愛憎の感情がまずあるとき、韓国の現政権が軍事独裁の系譜を引き継ぐ右派の朴槿恵を倒したリベラル派の文在寅だからこそ、トランプがひたすら対米従属しかしない安倍の日本よりも文在寅の韓国に配慮するのは当然の話だ。

また文在寅にとって金正恩政権は敵でも北朝鮮国民が同じ民族の同朋であることもアメリカの大統領としては無視できないし、アメリカの国是からしてもトランプが今の日本の差別意識に満ちた北朝鮮の国民への(そしてある程度は、韓国も含む朝鮮民族への)憎悪に同調するわけがない。

しかもトランプ本人は、大統領選挙中にセクハラ疑惑や女性蔑視暴言が取り沙汰され、また金髪美人の遥かに歳下で元スーパーモデルのエストニア人の何度目かの妻(ただしメラニア・トランプが肉体美だけで頭が空っぽの人形妻というのは誤解で、自国でトップの大学で建築を学び優秀な成績で卒業しているインテリの面もある)という、女性蔑視的な植民地主義そのまんまに見えてしまいかねないイメージもあるからこそ、本音はどうであろうが公人としての立場では、軍隊が植民地出身者の10代の女性を軍専用売春婦として酷使していたなんていう醜悪極まりない史実について、日本を擁護するわけがない。

米共和党も日本の慰安婦問題については、民主党以上の激しさで極めて批判的だ。2015年の安倍の訪米時の議会演説に傍聴していた慰安婦制度被害者への謝罪がなかったことを、厳しく非難したのも共和党だった。国の賓客が議会で行った儀礼性の高い演説に、有力議員から直接非難の声が上がるのは、アメリカの政治では異例の儀礼プロトコル違反だが、これも無理はない。アメリカ軍の戦場での実態がなんであれ、アメリカ国民が保守もリベラルも問わず支持する普遍的な価値観では、軍隊はあくまで民間人、とりわけ世界中どこでも自らの命を賭けて女子供を守るヒーローでなければならず、戦時中の日本軍がやったことはもっとも唾棄され軽蔑されるものだ。

「北朝鮮は国難」のはずが自分達の趣味を優先させる安倍

さらにひどい実態が、日本国内ではほとんど知られていない。青瓦台の公式晩餐会に出席した元慰安婦の女性は、サンフランシスコでの慰安婦像建立を検討した市の公聴会に参考人として出席していて、日本から参加した極右歴史修正主義団体の代表に「売春婦」だから「噓つき」に違いないと罵倒され、つまりは日本に侮辱された人だったのだ。この彼女への暴言が市民や市議会の怒りを買い、逆に慰安婦像の建立が強力に押し進められた経緯があった。この極右歴史修正主義団体は「日本会議」を通じて安倍晋三や自民党右派とも繋がりが深いと言われているが、そんな汚らわしい「価値観」を日本と「共有」する国なんてどこにもない。

ところが「そんな女をトランプに会わせるなんて韓国は卑怯だ」「慰安婦問題を蒸し返している」などと言い出しかねないのが今の日本政府の一部や、世論のうち安倍政権を熱烈に支持する層だったりするのだから、どこまで勘違いしているのだろう? 同じカリフォルニア州では、グレンデール市の公立公園に慰安婦像が建立されたこと同市在住の日本人を中心とした団体が訴訟に持ち込み、逆に恫喝訴訟と裁判所に判断されて彼らの方が厳しい懲罰的賠償を命じられたこともあったのだが、まるで学習していないのだろうか。

まず慰安婦問題が国際的な認知を得ているのは、別に韓国政府の陰謀でも「告げ口外交」でもなんでもない。だいたいこれは韓国国内の人権問題でもあって、過去の軍事政権もまた元慰安婦を無視し、韓国社会でも元慰安婦が差別されて来た歴史への反省が問われていて、今の民主化後の韓国政府がそこに応じようとして来ているだけだ。今の韓国政府はむしろ、北朝鮮の核武装を非難する大義名分が成立して周辺諸国や国際社会が協力し合えるために最低限守られなければならない一線を示している。日本が黙ってさえいれば、この北朝鮮危機が解消するまでは慰安婦問題を棚上げにしてでも韓国・中国・日本の連携を優先したいというのも韓国が示している態度なのに(逆に日本が幼稚な意地を張り続ける限り、この連携は破綻する)、日本はいったいなにをやっているのやら。

だいたい対北朝鮮で圧力というのなら中国も参加することが欠かせないのに、日本の現政権の歴史修正主義的な暴挙が続けば協力ができなくなるどころか、中国や韓国が無視できず考慮せざるを得ない大義名分を北朝鮮に与えかねないのだ。「とりあえず今は黙れよ」というのが、日本以外の関係諸国の一致した苛立ちだろう。

それにしても安倍外交のなにが「価値観を共有する外交」なのだろう? 日本が中古の巡視船を無償提供したりで味方につけようとしているフィリピンでも、慰安婦像を立てる運動が進んでいる。高速鉄道の売り込みで日本が中国に負けたインドネシアは、日本では「親日国」だとか「日本が独立に強力したので感謝されている」と思われているが、1970年代からずっと「イアンフ」という言葉が歴史の教科書で必修の学習事項になっている。一昨年に天皇皇后両陛下が戦没者の慰霊の旅で訪れた日本の旧委任統治領のパラオでは、日本人が一等市民で朝鮮人と沖縄出身者が二等市民、パラオ人が三等市民だった過去は決して忘れられておらず、「許してはいるが、忘れてはいない」という元大統領のインタビューも、一部の地方新聞では報道されていた。

だいたいこうした過去が未だに外交問題になること自体、日本の政治家がどうかしているというか、あまりに非現実的で政治的能力に欠けている。比較として例に出るのがドイツだが、アンゲラ・メルケルにとってのナチスの過去をめぐる負担とは、数々の記念日に謝罪の意と反省を表明する名演説を毎回準備することだけだ。あえてあけすけな言い方をしてしまうなら、しょせん言葉はタダなのだ。安倍がメルケルを見習ってさえいれば、2年前の「日韓合意」のように10億円を朴槿恵に貢ぐ必要すらなかった。

逆に言えば、このような自分達の個人的な趣味だけで国益を損ね国際的な連携を危うくしてしまうような人間に政治家をやる資格はないし、あこぎなビジネスマンであるドナルド・トランプにせよ元KGBの権謀術数に長けた豪腕悪辣政治家のウラジミール・プーチンにせよ、こんな子どもじみた安倍とまともに信頼関係なんて持つはずがないし、金正恩にしてみればそんな安倍をいいように弄ぶのは、赤子の手をひねるよりも容易いことだ。

どう転んでも「ほどほどに最悪」しかあり得ないのが現状

案の定、北朝鮮国連大使が飛び入り参加した安保理の閣僚級会合では、米朝双方が「これはこの場で議論することではない」と言わんばかりの、一見強硬なようにも映る態度を出来レース的に繰り返しただけだった。水面下で2国間交渉が進んでいるなら、他の国を巻き込まない、口出しをさせず情報も出さないのは外交交渉では当たり前だし、こと議長国としてこの会合を呼びかけた日本がアメリカにとっても今やかなり厄介な存在で、北朝鮮にとってはその日本が不誠実さや露骨な差別をいつでもあげつらうことが出来る相手である以上、この安保理会合は最初から両国のただのスピン・コントロールのパフォーマンスの場にしかなりようがなかった。北がわざわざ国連大使を出席させたのも、この国の外交ではもはや毎度おなじみの、ちょっとやり過ぎレベルのダメ押しに過ぎない。

もちろんアメリカが北朝鮮とどういう交渉をやろうが、現状の日本政府にとっていい話はなにもないことはアメリカも分かっている。だがだからこそ、そのアメリカから見れば、安倍の「抱きつき媚び売り外交」はかえって邪魔にもなるし愚鈍過ぎて煩わしいだけだ。

アメリカにとって議論の焦点が現実の脅威となりつつある火星15号である以上、日本がすでに十分に実戦レベルで核攻撃に使える数々の中短距離ミサイルの射程範囲にあることも交渉の対象としての優先順位が当然下がり、それだけでも日本政府にとっては直接的に不安材料だ。安倍官邸がアメリカに戦争を始めさせることで自分が対北朝鮮戦争をやる口実にしたくてしょうがないだけだとしても、いかに安倍一強とはいえ霞ヶ関はもちろん、自民党の議員の多くでさえそんなアメリカの勝手を簡単に許しはしないだろうが、それでも極論すれば日本を狙う核ミサイルは持っていて構わないがアメリカは狙うなというのが、アメリカにとっての現実的な落とし所のひとつになってしまうのは避けられない。

ここでちゃんと外交ができる政権ならば、折しも沖縄で相次ぐ米軍機の事故を利用して厳重に抗議し、このままでは沖縄の米軍基地が日本の安全に寄与するものとは考えられなくなる、というくらいのブラフはかけるものだ。だが昨年のオスプレイ墜落事故でも、今夏の東村高江のヘリ墜落事故でも、直近の米軍ヘリ部品が保育園や小学校に落下した事故でも、むしろ責任をうやむやに済まそうとしているのは日本政府の方だ。

あるいは交渉テーマが本格的に「朝鮮半島の非核化」になるとしても、ならばこれだけの核武装を進めてしまっている北朝鮮は、それだけより強いカードも切ることができる。いや単に「朝鮮半島の非核化」の本来の意味通りになるだけなのだが、要するに北朝鮮が核開発を凍結するのなら、アメリカも北朝鮮に向けた核武装を止めろ、という交渉に当然なる。

つまり、日本が依存しているアメリカの「核の傘」がなくなることが北朝鮮にとって核開発を凍結する条件の一部になる、ということだ。これには当然、日本列島の(とくに沖縄の)完全な非核化が保証されることが最低条件にもなるし、非核三原則の「持ち込ませず」や、沖縄の日本返還以降は沖縄に核兵器はないとする日本政府の公式見解が虚偽だと言うのは誰にとっても分かりきった話でしかない。「朝鮮半島の非核化」をめぐって北朝鮮がアメリカと交渉するのなら、当然ながら最低限でも沖縄本島の核弾薬庫の完全撤去は必ず求めて来るし、その過程で日本政府のこれまでの二枚舌的な欺瞞も注目されることにもなるだろう。

なんだかんだ言っても唯一の戦争核被爆国である日本の、その国民の大多数にとっては、これはむしろ歓迎すべきことですらある。世論調査の対象にすれば、核密約などに対して政府への不信や怒りも表明されるだろうし、核弾薬庫の完全撤去などは支持が大多数を占めるかもしれない。しかしだからこそ、安倍政権は絶対に拒否するだけでなく、そういう交渉の可能性があり得ることすら国民に必死で隠すだろう。

「対話のための対話」しか残された手段はないのかも知れない

アメリカの交渉の落とし所が火星15号つまり米本土攻撃可能なICBMの阻止だけになるにせよ、「朝鮮半島の非核化」を実現する交渉になるにせよ、日本と韓国にとっての「核の傘」は限りなく実効性の低いものになるか、実質上ないに等しいものになってしまう。

ならば日韓の右派からは当然「ならば我が国独自の核武装を」という話も出て来てしまうだろう。日本の世論がこれを支持するとはまず考えられないが、韓国は分からない。広島と長崎でどれだけの悲劇が起こって、今もどう悲劇が継続しているのか、日本人以外にはまだまだ世界的によく知られていないし、日本政府がその努力をしているとも言い難いのだ。積極的な教育が行われつつある点では、まだアメリカの方がマシかも知れない。いずれにせよ被爆国の日本が「核の傘」に固執するようでは、広島と長崎の悲劇の持つ説得力は薄らぐ。

もちろん韓国なり日本なりが自国も核武装を、となればNPTで核武装の独占が保証された安保理常任理事5大国にとって、高い技術力と国家の予算規模からしてより話が大きくなるだけに、北の核武装以上に看過できない事態になる。こと地理的に近いロシアと中国は、態度を硬化させて核武装を強化する他はない。

アメリカと北朝鮮のあいだで話し合い解決してもらわないことにはどちらの国も困ってしまうのもまた現実ではあるが、その交渉の進展次第では…と言うよりはかなりの公算で、この両国にとって困った事態を招く可能性もあるのだ(まただから、いざ米朝交渉を始めてもアメリカは当分のあいだ極秘を貫く)。韓国や日本の独自核武装の機運が高まるというのであれば、それはそれで世界の全体にとってまさに最悪の結果だ。

安倍首相は「対話のための対話は意味がない」と強弁するが、こうなると対話のための対話で決着を先延ばしにするしか、有効な手はないのが現実とすら言えそうだ。対話拒絶の強硬姿勢は北朝鮮が着々とICBMと水爆の開発を進める時間稼ぎに利用されただけではないか。ティラーソンが「対話を始めよう、最初の話題は天気でもいい」とアメリカの本音をあえて公言したのは、それだけ切羽詰まっていて、今のやり方では悪い方にしか話が転ばないことがもはや自明だからだ。

「抑止力」「核の傘」という幻想の崩壊

北朝鮮にとってもアメリカにとっても、軍事力の直接行使は自国にとって破滅的な結果しか招かない(北朝鮮はアメリカの核攻撃で全土が壊滅するリスクがあるし、北朝鮮にはアメリカ全土壊滅まではとても無理にしても大都市への核攻撃や電磁パルス攻撃なら可能性は十分にある)ので意図的に始めることはまずあり得ない。しかし偶発的な、なにかの間違いやボタンの掛け違いで戦闘が始まってしまい、それが核攻撃の応酬にまでエスカレートする危険性はどんどん大きくなっている。ならばせめて対話のための対話を継続することは、偶発的な危機を避けるために残された、数少ない手段のひとつだ。

もちろん、ちょっと距離を置いて客観的に見れば、このすべてがバカバカしいとしか言いようがない。

まず金正恩にとっては、父の代の中国属国状態を脱して、体制を安定させるためにも、国民生活の向上を目指すことができるならその方がよかったし、そのためには日本やアメリカに敵視政策さえ止めてもらえばそれで済んだことだった。わざわざ膨大な予算を注ぎ込んで核やミサイル開発に乗り出すやる気もその必要性も、金正恩が権力を継承した当初にはなかったのだ。

だからこそ金正恩は就任早々に、安倍政権に拉致問題の再謝罪を表明する準備があること、再調査の上死亡した被害者についてはその経緯を明らかにし、日本政府が未確認の被害者で生存者がいるようなので帰国させたい、と申し出ていた。この交渉に日本政府が応じるまでなぜか一年以上が経過し、しかもうやむやに立ち消えになった…というより日本が核実験への報復の制裁の一貫として、通告もせずに一方的に打ち切ってしまったのは、なぜなのだろう?

日朝国交正常化には、当然ながら日本がかつて半島を植民地支配して圧制を行い、失敗したことへの反省の表明が付随することになる。まさかそれが嫌で嫌でしかたがないので、北朝鮮との対話から逃げ続けているのが安倍ニッポンなのだろうか?

オバマ政権の「戦略的忍耐」が無意味だったという批判まではトランプは正しい。だがそこを狡猾に逆手に取られた点では、金正恩の方が一枚役者が上だった。今年に入ってから核とミサイルのド派手なパフォーマンスが始まったのは、就任したてのトランプが前政権の誤りを証明したくてしょうがないのを見越してのことだ。そして案の定、金正恩の計算した通りに、トランプ政権は過剰なまでに激しい反応を示してしまった。

マティス国防長官が最初から言っているように、アメリカにとって戦争という手段はあり得ない。トランプは中国さえ巻き込めば解決は簡単だと最初は思っていたのだろが、その目論みが完全に外れて次の手がないのが現状のこう着状態だ。トランプ本人は直接交渉にかなりの自信があるようだし、これ以外に事態の打開は期待できないだろうが、同盟国日本を始め反対する勢力も無視はできない。

中国は北朝鮮を属国とみなす態度に胡座をかき続けるべきではなかった。20世紀以降ではどんな国や民族にも、自分たちの国として独立して自尊心を満たす願望はあるし、その願いの痛切さをどの国や民族よりもよく分かっているのは、清朝の没落に植民地主義列強につけ込まれて19世紀後半から20世紀の前半にかけて侵略や内乱に苦しみ続けた中国のはずだ。そうして深く傷つけられた漢民族が自信と道徳観を取り戻し、中国社会がなんとか正常化するためには何十年もかかったし、その過程では大躍進政策の失敗や文化大革命などの数々の悲劇も経験しなければならなかった。ならばその痛まし過ぎる試行錯誤のなかで正式領有という取り返しのつかない判断ミスを犯したチベットや新疆ウイグル自治区はともかく、北朝鮮ならば元から建前上はあくまで独立国として認めて来た相手だ。中国のメンツを保ちつつもそれなりの敬意を持って対応する知恵は、金正恩が政権を継承してからの動向をちゃんと見てさえいれば、簡単に出せたはずだ。

韓国が民主化されて経済発展も遂げた90年代以降では、格差が歴然としている北朝鮮との再統一は現実問題として相当に難しい。朝鮮戦争のトラウマもあり、また「共産主義」へのパラノイアに毒された右派だけでなく、文在寅を支持するようなリベラル派にとっても、北朝鮮と融和していずれは統一をという「理想」は、もはやおよそ本気で信じられるものではない。冷戦後の統一ドイツや、旧東欧共産圏の現状を参照しても、朝鮮半島の統一はむしろその後に大きな困難が待ち受けているのは分かりきっているのだ。

また格差が激しいからこそ民主化後の韓国の豊かさや自由に憧れて亡命して来た脱北者が、今度は韓国で差別されている現実もある。先日の板門店の若い亡命兵ならK-POPの女性グループへの憧れでああいう行動に出ることもあったかも知れないが、韓国の自由や豊かさを知れば北朝鮮国民も統一に納得するという幻想はもはや成り立たないし、日本のように差別的な国があるのだから一緒になるのはまっぴら御免だという感情も(そして在日朝鮮人の家族を通して北朝鮮国民はそれをよく知っている)今なら当然出て来るだろう。しかもいわゆる自由主義の先進国の側は、むしろそういう不信感を北朝鮮の国民に植え付けることにばかり熱中して来たし、その韓国も含む先進国でも貧富の格差がこれだけ問題になっていれば、豊かさへの憧れが再統一の原動力になる、というのは今やかなり無理がある。

だがそれでも、韓国政府について言えば、金日成から金正恩に体制が替わったこと、そこでこの新指導者がわざわざ自分の叔父(親中派でそこそこに腐敗はしていた)まで心を鬼にして粛清したりしたことの意味をもう少しよく考えれば、融和や再統一への道筋はともかく、少なくとも多少は安定した関係性に持ち込むことは出来たはずだ。残念ながら朴槿恵にそれを期待するのがそもそも無理、と言われればその通りではあるが。

「大国」の論理、「大国になりたい」病理の限界

以上のどの国から見ても、北朝鮮はしょせん、こう言っては悪いが自分たちと較べてもの凄く貧しい小国でしかないし、それをいちばん理解しているのが北朝鮮とその国民なのも言うまでもない。ならその貧しい小国にも貧しい小国なりのプライドがあることくらいは考えて対応するのが大人の外交というものだし、世界がこれだけ相対的に小さくなると同時に多様化して来た現代に、その知恵を持つべきなのはなにも対北朝鮮に限ったことではない。

その意味でももっともバカバカしいのは、「人類の持ち得た最強の兵器」にいつまでも憧れ固執し続け、あまりに強力過ぎて残虐過ぎて人倫に反し、破壊力があり過ぎて使えもしないのに、「最強の兵器」を持つことのバカげたプライドに固執するあまり「抑止力」なる机上の空論を半ば空想と半ばパラノイアででっち上げ、今やその空論にがんじがらめになっている愚かしさが、この北朝鮮危機の根幹にあることだ。

政治家たちの根は恐ろしく短絡的な「力」への信仰というか固執こそが、このにっちもさっちも行かない状況を作り出している。核兵器が究極に非人道的なものであるというのは、実はその政治家たちだってよく分かっているはずだ。いやむしろ究極に非人道的なまでに強力な兵器だから持ちたい、と欲望するのかも知れないが、そんな欲望の実現で競い合うこと自体からそろそろ卒業した方が、無駄がないだけでもまだいい。

今年の大河ドラマ『おんな城主直虎』で、徳川家康が戦国乱世について「わしはこの世が嫌いじゃ」と告白する。「一体誰が望んでかようなことになっておるのか」「戦という手立てがある限り、武勇が自慢のものはそこに訴える。ならばあらかじめ、戦が起こせぬよう仕組みを整えればいい」。現代の世界には国際連合という「戦が起こせぬ仕組み」は不完全ながらもあるが、今の日本政府はまだまだ未完成なその仕組みの制度的抜け道につけ込んでその欠陥を広げることの口実に、北朝鮮を使っているようにも見える。

日本の歴史では、現に戦国時代を終わらせる、戦争ができない仕組みを作り上げたのが家康とその子、孫(家光)、ひ孫(家綱、綱吉、吉宗)たちだった。完成までに100年近くかかってはいるが、その知恵は国際的な歴史学の世界では今や高く評価されている。明治以降の政府の自己正当化で徳川幕府を批判的に教えて来た「皇国史観」的な考え方は、今や完全に時代錯誤だ。

経済システムの変化と目覚ましい経済発展の結果、今の東アジアではこのような国家間の衝突や軍事力競争はとっとと止めた方が最大多数の最大幸福になることも分かりきっている。だが政治システムはとなると、第二次大戦の反省から国際連合という仕組みを作ることをフランクリン・ルーズヴェルトが提唱し、その死後・戦後に一応は実現してから70年、まだまだその仕組みはおよそ完成されたものとは言えない。ならばそれをちゃんと完成させる努力を主導することこそ、安倍がいう「日本が世界の中心で輝く」ことになるのではないか?

だからこそ核兵器禁止条約になぜ国連加盟国の数から言えば圧倒多数が賛成したのかをよく考えた方がいいのは…いやそもそも、唯一の核被爆国であり、かつては沖縄に世界有数の核兵器の集中配備もあった日本だからこそ、この条約の意味にしても真っ先に理解しているはずなのだが。

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